M&Aにおいては、株式譲渡の場合は勿論、合併や株式交換、株式移転、会社分割等、いかなる手法を用いたとしても、株主価値の評価が問題となります。

一般には、株主価値や事業価値、企業価値といった用語が混同して利用されることがありますが、M&Aの場面では、定義をきちんと理解して分けて考える必要があります。

まず、企業価値(EV)とは、事業価値に、時価評価した非事業用資産の価値を加えた企業全体の価値をいいます。

次に、事業価値とは、対象会社が本業とされる事業から創出されるフリーキャッシュフローをもとに算定された価値をいいます。

そして株主価値とは、企業価値から有利子負債を控除した価値(株主に帰属する価値)をいい、株主価値が、M&Aにおける取引の対象となります。株主価値を株式数で除することで株式価額が算定されます。

また具体的な株式価額の評価方法としては、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3手法があります。

1. インカムアプローチとは

将来期待される経済的利益について、当該利益実現のために見込まれるリスク等を反映させた割引率で現在価値に割引きして株主価値を算定する方法です。

DCF法、APV法、収益還元法、リアルオプション法がありますが、代表的なものはDCF法です。

2. DCF法とは

(1) DCF法について
DCF法では、まず、事業計画に基づく将来キャッシュフローを算定し、当該将来キャッシュフローを現在価値に割引きして算出します。

具体的には、1年目から5年目までの各年のキャッシュフローを予測し、6年目以降のキャッシュフローを一括して予測します。

これを現在の価値に割引きして事業価値を算定し、余剰現預金と非事業用資産を加算して企業価値を算定し、有利子負債を控除して株主価値を算定します。

(2) キャッシュフローとは
キャッシュフローとは、現金収支のことを意味し、当該期中において、対象会社が営業活動、投資活動、財務活動により、現金をどのようにしてどれだけ増減させたかを明らかにするものです。

キャッシュフローについては、簡略的に「税引き利益?配当金?役員賞与+減価償却費」として算出されることが多いようですが、M&Aの場面では、キャッシュフローの内容は3つに分けて定義され、当該ケースに応じたキャッシュフローの算式で算出することになります。

事業キャッシュフロー

算式:EBIT(支払利息控除前税引前利益)×(1?税率)+非現金支出費用(減価償却費)?設備投資額?運転資本増加額

事業キャッシュフローは、単にフリーキャッシュフローとも呼ばれることがありますが、財務活動は含めずに、営業活動と投資活動からなるキャッシュフローを考慮して算出されます。

株主キャッシュフロー

算式:税引後利益+非現金支出費用(減価償却費)?設備投資額?運転資本増加額?借入金返済+新規借入金+新株発行増資?資本償還?優先配当金

株主キャシュフローは、エクイティーキャッシュフローと呼ばれることもありますが、対象会社の借入金、社債、優先株のような債務や普通株式以外の株式を完済した後に残った普通株主に対する配当金や将来の設備投資のための原資となるキャッシュフローをいいます。

総資本キャッシュフロー

算式:事業キャッシュフロー+支払利息の節税効果の現在価値

総資本キャッシュフローは、株主キャッシュフローと債権者キャッシュフローを合算したものをいいます。

(3) 割引率とは
割引率は、投資家が要求する投資のリスクに見合う最低限の利回りを意味し、かかる利回りは、投資を受ける側からすれば投資家に支払うべきコストを意味するので、資本コストとも呼ばれます。
自己資本コスト
自己資本コストは、投資家が対象企業の株式を取得するときに期待する投資利回りを意味します。自己資本コストは、次の算式で算出します。

算式:リスクフリーレート+β×(株式リスクプレミアム)

リスクフリーレートとは、リスクフリーの投資利回りを意味し、通常、債務不履行の可能性がない長期国債の利回りが用いられます。

β値は、市場全体のリターンの変化に対する対象会社のリターンの変化の尺度を示す指標です。具体的には、対象会社の株式利回りと株式市場全体の株式利回りの共分散を株式市場全体の分散で除して算定します。

上場企業のβ値は、東京証券取引所などで公表されていますが、非上場企業の場合は、同業種の公開会社の中から類似した会社を数社選定し、その平均値を当該非上場企業のβ値と推定します。

株式リスクプレミアムとは、株式市場に投資することによってリスクフリーレートを超えてどれだけ高い投資利回りを期待できるかを示す指標であり、通常、マーケット全体のインデックスで表わされます。

M&Aにおける投資は、長期投資を前提としていますので、長期間のリスクプレミアム過去実績が使用され、一般には、過去30年から50年の株式市場のヒストリカルリスクプレミアムとして、5%台から7%台を採用するケースが多く見受けられます。

他人資本コスト
他人資本コストは、負債コストとも呼ばれ、対象会社の長期借入金や有利子負債の資金コストを意味します。

負債コストは、対象会社の借入金に対する支払利息の支払実績に基づいて算出されるケースが多く見受けられます。支払利息は、税務上損金処理されますので、その分コストは低減されますが、負債コストには、対象会社のデフォルトリスクも考慮して決定される必要があります。

優先株式コスト
優先株式は、普通株式に優先して配当金が支払われる一方、負債の利息とは異なり利益が発生しない限り、配当金は支払われませんので、負債よりコストが高く、普通株式よりコストが低いといえます。

通常、優先株式の評価額に対する優先配当金の比率によって表わされます。

加重平均コスト(WACC)
WACCは、投資家が対象会社の株式の他に優先株式や有利子負債を買い取っても見合うと想定する最低の期待利回りを対象会社が生み出している場合に、その最低の期待利回りを意味します。

従いまして、WACCは、自己資本コスト、優先株式コスト、他人資本コストを自己資本、優先株式、他人資本の時価によって加重平均することによって算定されます。

(4) DCF法の種類
エンタープライズDCF法
エンタープライズDCF法は、事業キャシュフローを税引後WACCで割引いて算定する方法であり、最も一般的なDCF法です。

この評価方法は、事業のファイナンス構造に関係なく評価額を決定することができるため、一般事業会社の評価に多く用いられています。

エクイティDCF法
エクイティDCF法は、株主キャッシュフローを、自己資本コストで割り引いて算定する方法です。

この評価方法は、一般事業会社にはあまり適用されておらず、事業のために使用される資本コストを見積もることが難しい金融事業の評価に適用されることが多くあります。

(5) 成長モデル
DCF法の算定にあたっては、将来キャッシュフローの成長率をどのように考えるかという問題があります。
ゼロ成長モデル
ゼロ成長モデルは、キャッシュフローが一定額で永久に続くことを前提とする方法です。
一定成長率評価モデル
一定成長率評価モデルは、キャッシュフローが一定比率で永久に成長することを前提とする方法です。

このモデルは、安定した成長率が見込まれる成熟産業に所属する企業によく適用されます。

変動成長評価モデル
変動成長評価モデルは、キャッシュフローが将来変動して成長することを前提としています。

当初一定期間は高成長が見込まれ、その後成長率が低くなることが予測される企業によく適用されます。

3. APV法とは

APV法(修正現在価値評価方法)とは、事業資産の全額を自己資本で調達した場合の事業価値と支払利息節税額の現在価値の総和によって算定する方法です。

この評価方法は、LBOによって取得しようとする事業の買収価格を算定する場合に多く採用されます。

1. マーケットアプローチとは

実際の市場での相場価格や、上場している同業他社、類似取引事例などを比較するなどして、相対的に株式価値を算定する方法です。

市場株価法、類似上場会社比較法(類似会社比較法)、類似業種比較法、類似取引比較法などがあります。

2. 市場株価法とは

市場株価法とは、対象上場会社の一定期間(過去1ヶ月から6ヶ月程度)の市場株価をもとに平均株価を株式評価額とする方法です。

市場での株価は、多くの投資家の需給関係によって形成され、企業の将来収益力や財産価値なども反映されることから比較的客観性が高い評価方法とされています。

市場株価法においては、取引量と株価の関係を重視した出来高加重平均株価(VWAP)で平均株価を算定することが多くありますが、終値の平均をとることもあります。

市場株価法は、市場での価格を算出根拠にしますので、上場会社のみが対象となりえます。なお、上場会社でも、新興市場に上場し、出来高が極端に少ない銘柄については、多くの投資家の需給関係が反映されているとはいえませんので、上場会社であっても、市場株価法がふさわしくない場合があります。

平均値をとる一定期間は、6ヶ月程度がもっともよくありますが、最近では四半期決算が重視されていることから3ヶ月程度の平均をとる場合も少なくありません。

ただ、当該期間において、風評被害や仕手筋が動く、スクープ、不当な発表など不合理に乱高下している場合は、その期間を外して算出したり、平均期間を長くとるなどして、客観性を高めます。

3. 類似上場会社比較法(類似会社比較法)

類似上場会社比較法は、公開している類似上場会社の株価に対する各種財務数値の倍率を算定し、当該倍率に対象会社の財務数値を乗じて、事業価値を算出し、これに非事業用資産を加算して有利子負債を控除し、対象会社の株価を算定する方法です。

類似上場会社比較法では、事業価値は、基本的に対象会社の財務数値に類似上場会社の財務数値の倍率を乗じて算定しますので、利益やキャッシュフローの財務数値がマイナスの場合は、適用できません。

また、対象会社が非上場会社の場合で、規模が小さい場合や譲渡制限が付いているような場合には、一定のディスカウントを入れることが一般的です。

倍率算定のための財務数値にどのようなものを選定するかにより、以下のようなものがあります。

(1) EBITDA倍率

算式:(株式価値総額+有利子負債?現預金)÷EBITDA

     EBITDAとは、税引前利益に支払利息と減価償却費を加算したものであり、他人資本を含む資本に対して、どの程度のキャッシュフローを産みだしたかを示す利益概念である。

EBITDA倍率は、M&Aの実務で最もよく用いられています。

(2) EBIT倍率

算式:(株式価値総額+有利子負債?現預金)÷EBIT

     EBITとは、税引前利益に支払利息を加算したものであり、他人資本を含む資本に対して、どの程度の税引前付加価値を産み出したかを示す利益概念です。

単に営業利益として定義づけられることもあります。

(3) キャッシュフロー倍率

算式:(株式価値総額+有利子負債?現預金)÷キャッシュフロー

(4) 売上高倍率

算式:(株式価値総額+有利子負債?現預金)÷売上高

(5) 純利益(PER)倍率

算式:株式価値総額÷税引後当期純利益

(6) 純資産(PBR)倍率

算式:株式価値総額÷簿価純資産

4. 類似業種比較法

類似業種比較法とは、類似業種の株式時価総額を、類似上場会社比較法で説明しました財務数値総額で除して算出した倍率を、対象会社の財務数値に乗じて企業価値を算定する方法です。

類似業種比較法には、相続税法に規定された財産評価基本通達で定められた評価方法がありますが、国税庁が公表する倍率は、実態を正確に反映していない欠点があります。S&P社やムーディー社等において、業種別に倍率を算定しているので、それを利用することがあります。

類似業種比較法は、具体的な類似会社がない場合などに採用することがあります。

5. 類似取引比較法

類似取引比較法は、類似のM&A取引の買収価格を、その価格に影響を及ぼす財務数値で除して算出した倍率を、対象会社の財務数値に乗じて企業価値を算定する方法です。

1. コストアプローチとは

コストアプローチは、全ての資産項目と全ての負債項目を個々に時価評価してその差額である純資産を株主価値として評価する方法です。

税法上、グループ会社間の株式譲渡の際の株式の評価方法の一つとして用いられていますが、M&Aの実務では、コストアプローチの手法のみで株価を結論づけることはなく、インカムアプローチやマーケットアプローチと併用されて利用されています。

コストアプローチには、純資産法(修正簿価法)、清算価値法があります。

2. 純資産法とは

広い意味でのコストアプローチには、会計上の簿価に基づき算出する方法(簿価法)もありますが、通常、簿価は時価と乖離していますので、M&Aの実務において、簿価法は採用されていません。

純資産法(修正簿価法)では、貸借対照表上の資産を時価評価に引き直して修正し、負債の時価を控除して評価額を算定します。

3. 清算価値法

対象企業が継続しないことを前提に清算した場合の時価を算出する方法です。
清算に付随して発生する税金や法務コスト、鑑定コスト等についても処分価格から控除されて評価されることになります。

M&Aの場面では、対象会社が破産することを最悪のケースとして想定して対象会社の最低価値を算出するために試算されることがあります。

高松高決S50.3.31判タ325-220

【採用された算定方法】純資産法+類似会社比較法(1対1)

会社の特徴 営業の中心は米と飼料の卸売及び製粉、資本金1500万円(買取請求時)、中規模会社、発行済株式総数15万株、創業者一族全株保有の同族会社、非上場、株式譲渡制限有
株主の特徴 非支配株主かつ同族株主である株式買取請求者
その他 買取請求価格は、「抽象的には買取請求の意思表示が相手方に到達したときにおける株式の客観的交換価値」
非支配株主とはいえ、同族株主で、会社が譲渡制限会社で、規模も中規模であることから、株式の価値は会社の純資産価値を反映した価値を帯有する
原審は、純資産法と類似会社比較法を2対1にして算定したが、営業継続会社の投下資本回収法 が株式譲渡以外にないことを考慮すれば、純資産価値を重視しすぎである

大阪高決S60.6.18判時1176-132

【採用された算定方法】配当還元法+収益還元法+純資産法(3対3対3)

会社の特徴 紡績業、帳簿上の総資産約37億円、含み益約48億円、従業員数約300名、近年売上高は毎年減少し、経常利益は大幅赤字で土地売却等により経営維持、発行済株式総数200万株、同族会社、非上場
株主の特徴 非支配株主(それぞれ約2万ないし約8万株を所有)である株式買取請求者ら3名
その他 営業継続会社であっても、株主は潜在的には残余財産分配請求権を有しており、純資産価値が大きいことは経営に利益に働くから、純資産法のウエイトを1割とするのでは低すぎる
本件においては、本来3つの手法を均等割合とすべきであるが、業績好転の見込みが少ないことを考慮して、純資産法に他より若干のウエイトをおくのが相当である
収益還元方式及び配当還元方式による試算価格が0である場合でも、これを無視するべきではない

最判S63.1.29別冊商事101-214

【採用された算定方法】収益還元法+純資産法(1対1)

会社の特徴 米菓の製造販売(従業員30名程度で販売業務のみ)及び1棟の貸ビル経営、過去10年の米菓部門売上げは約3?3.7億円で推移、同部門として毎年2000万円前後の損失、一方、不動産部門の売上は4000万から7000万に増大し、毎年2000万円前後の利益、総括としては直近10年中7年が赤字、発行済株式総数19万8000株、同族会社、非上場
株主の特徴 6万6000株を保有する元代表取締役(非支配株主) 
その他 全く配当が実施されていない上、将来の配当予測が困難でかつ、売買当事者が一般投資家でない本件では、配当還元方式は相当でない
本件では、その業態から適切な類似会社を選定することが困難なので、類似会社比準方式は相当でない

大阪地岸和田支判S47.4.19・判時691-74

【採用された算定方法】配当還元法

会社の特徴 毛布製造販売業者、業務のうち約81%が卸売業、19%が毛紡織業、直近の売上高は約27億円、営業利益は約8300万円、発行済株式総数10万株、同族的性格あり、非上場
株主の特徴 引受人は中小企業投資育成会社で支配権行使を禁じられている(非支配株主)
その他 収益還元方式は、収益力が必ずしも1株当たりの株式の収益力を意味しないから非支配株主によって所有される株式の評価には不適当である
会社が10年後の株式公開を目標としていても、10年後の結果は現在の株価にほとんど影響がないから、現に株式を公開している会社の配当性向の平均値を基準とすべきではない

大阪地堺支S48.11.29・判タ304-249

【採用された算定方法】配当還元法+類似会社比準法

会社の特徴 主たる営業は染色加工業、会社更生手続中、非上場
株主の特徴 新株発行に反対する非支配株主
その他 配当還元方式は、将来の配当の平均水準が、最近の過去における配当実績とほとんど変わらないであろうという想定を基礎としており、本件のように今期まで更生手続中で、時期から配当できるようになった本件では妥当しない
純資産方式は営業継続会社においては、持分は観念的な存在にとどまるから、適用ケースは、小規模会社化解散直前会社に限られる

佐賀地決S51.4.30・判時827-107

【採用された算定方法】純資産法を重視

会社の特徴 液化石油ガスの充填・販売業、資産総額約4.3億、負債総額約3.7億、協同組合を前身としており、株主の多くは協同組合当時の組合員でその他の最大株主でも1800株を所有するのみ、経営状態は比較的良好で、過去2年の平均配当率は13.5%、発行済株式総数8万株、非上場
株主の特徴 引受人は新株発行により総株式の4分の1を取得する会社で、非常勤取締役及び監査役を1名づつ派遣予定
その他 「特に有利なる発行価額」については、新株発行決議当時の企業の有する客観的価値をもって形成される株式評価額が基準となる
新株発行が、訴外会社の資本参加を目的としていること、会社が協同組合的性質を有し、株主の大部分は会社の顧客であること、債務者と同種・同規模の上場会社も存在なく、比準方式により得ないことから、旧株主保護のため純資産法を基礎とする

神戸地判S51.6.18・判時843-107

【採用された算定方法】類似会社比準法

会社の特徴 繊維工業品の製造業、純資産約129億円、月商約12億円、当期利益金約3000万円、非上場である(本件新株発行の約14年前に上場廃止)が、当時、いわゆる「店頭気配相場」あり、発行済株式総数360万株
株主の特徴 取締役の解任を求める非支配株主ら2名(ともに約30万株を保有)
その他 本件のように大規模かつ店頭気配相場もある歴史の古い会社について純資産価額方式をとることは不合理が大きい
本件のような歴史の古い大企業において、純資産や収益を全く捨象する配当還元方式は取り得ない
本件では、株価決定の大きな3要素(支配、投資、投機)を加味している類似会社比準方式が適している

東京地決S52.8.30・金判533-22

【採用された算定方法】詳細不明

会社の特徴 自動車並びに各種内燃機関整備用機械工具、自動車部品の製作・販売及び輸出入、資本金5000万円、発行済株式総数100万株
株主の特徴 非支配株主
その他 公正発行価額の適否は、発行価額決定時における旧株の株価を基準として、これに新株発行に伴う諸要因を加味する
本件新株発行の約1年前から、業績が急激に悪化し、業績が好転した事情がないことを価格決定にあたって考慮

東京地判S56.6.12・判タ453-161

【採用された算定方法】純資産法を基礎にして修正

会社の特徴 増資直前の純資産額は約1.5億、発行済株式総数20万株、当時欠損、無配で経営は思わしくなかった、株式譲渡制限有
株主の特徴 支配株主
その他 本件では、名義株があり、実質的には株主は4名で固定しており、取締役にはこの4名の中から3名が付いていたことから、個人企業にも似て実際上株式は会社財産を化体したものとの認識が株主の間に強く働いているとみても不合理とはいえず、純資産法を採用することは実態に即している
本件では、株主は単に配当受領の権利を有するだけでなく、現実に会社の経営面に関与しうる立場にあったのだから、配当還元方式は妥当ではない
会社の当時の経営状況(利益及び配当の状況)が悪ければ、これらの事情を斟酌して減額修正する必要がある
換価可能性の程度も株価にかなりの影響を持つから、株式の流通性も減額修正要素として考慮する必要がある

東京地判H6.3.28・判タ872-276

【採用された算定方法】ゴードンモデル法

会社の特徴 ラジオ放送事業、平成5年3月期売上げは412億円で民放ラジオ業界では昭和40年以来第1位、業績は好調で最近は1株60円(額面の12%)の配当を継続、発行済株式総数100万株、株主279名、非上場、株式譲渡制限有
株主の特徴 支配株主
その他 類似会社比準法を採用するには、少なくとも業種・規模等基本的な点がほぼ同種で大きな差がないことが必要であるが、ラジオ単営の本件会社とテレビ単営あるいはテレビ・ラジオ兼営の会社では同種といいうるか疑問である
親会社と子会社は別個の法人格を有しており、子会社の資産・収益がすべて親会社の資産・収益になるものではないし、親会社が子会社の全株式を保有する場合でなければ、子会社の利益を度外視して、自己の利益のために親会社が子会社を支配することも困難である。まして、本件では子会社(フジテレビ)は親会社の7倍の売上げを誇っているから、子会社の資産・利益を親会社のそれと同視することには問題があり、子会社を含めた企業集団としてとらえた上で類似会社比準方式を採用することもできない
近い将来上場の可能性があることは否定しがたいとしても、上場の意思表明も具体的手続も行っていない現時点では、直ちに上場公開を前提として株価算定を行うことは必ずしも妥当ではない
本件のように、類似会社が存在せず、非上場だが概ね順調な業績を続け安定した配当を行っている大規模会社の非支配株に関する価額算定方式としては、ゴードンモデル法は、株主が現実に期待しうる利益を理論的に算定するものとして相対的な適切さを肯定すべき

東京高決S46.1.19・判タ261-343

【採用された算定方法】類似会社比準法による収益還元法

会社の特徴
株主の特徴

東京高決S47.4.13・判時667-78

【採用された算定方法】純資産法のみ

会社の特徴 製品梱包作業請負、売渡請求時の純資産は約5400万、同族会社的色彩が強く、非上場
株主の特徴 非支配株主
その他 純資産法の採用に当たって、借地契約につき借地権利金の授受がない場合には借地権価格が発生しないとの考え方は採用できず、借地権価格も純資産額に加えられるべきである。
譲渡株主がもともと当該株式の発行会社の常務取締役であったが、疎んぜられて不本意ながら辞任するのやむなきに至ったという事情は、株価の決定に際して株主に有利に加味されるべき事情である

広島地決S51.3.5・広島高決S55.3.28

【採用された算定方法】相続税財産評価基本通達の類似業種比準法を85%の比率で用いる

判例集への登載なし

東京高決51.12.24・判タ349-248

【採用された算定方法】収益還元法+純資産法(1対1)

会社の特徴 輸送用機器のオイルフィルター等製造(大手輸送機器メーカーの純正部品製造)、現時点で、受注量は安定し業績も順調に推移しているが、純正部品製造開始以前の多額の繰越欠損金を抱えており、創業以来無配、当時の従業員は53名から70名程度、資本金4500万円、発行済株式総数3万株
株主の特徴 全株主3名のうちの一人で支配株主(2万1000株を保有)
その他 本件株式の売買当事者のように、経営支配を目的としており、配当額よりも企業利益そのものに関心を持っている場合、収益還元方式が適する。ただし、本件売買によって、抗告人が全株式を取得することになり、一切の企業収益は勿論、会社財産も抗告人に帰属するので、このような場合には、収益還元法のみによるのは妥当を欠き、会社財産の実質的取得の側面から時価純資産方式にも相当程度のウエイトを置き、これを複合して適用するのが適切である

名古屋高決S54.10.4・判タ404-147

【採用された算定方法】相続税財産評価基本通達の配当還元法を考慮しつつ、純資産法、営業成績、流通価格(市場価格、取引先例価格等)を総合した併用方式

会社の特徴 「名古屋芸妓株式会社」、小会社、非上場、譲渡対象株式に譲渡制限特約あり
株主の特徴 芸妓、非同族株主
その他 相続税財産評価に関する基本通達による算定方式は、これのみによる評価は相当ではないが、株価算定の一方法としては無視しえない
芸妓が廃業して脱退する際には、例外な組合が額面額で買い取ってきたという従来の慣行があり、これは公開市場を前提とした取引価格とはいえないとしても取引先例価格として全く無視することはできない

京都地決S56.7.24・金判685-23

【採用された算定方法】配当還元法

会社の特徴 業務用化粧品の製造販売業、借入金がなく内部留保が多い健全優良企業であり、化粧品業界においては屈指の企業、資本金1億9200万円、発行済株式総数38万4000株、非上場、創業者の一族が株式の53.9%を保有、株式譲渡制限有
株主の特徴 支配・経営を目的としない一般株主間の譲渡、2名の譲渡人の保有株式は、それぞれ2万8700株と1400株
その他 買取を求めている株式について、買受の意向を表明している者の呈示価格を買取を求める者の有利に考慮することができる
上記事実に加え、会社の資産状態、収益状況、収益力、将来の事業見通し等を加えて総合的に判断すれば配当還元方式が合理的である

大阪高決S58.1.28・金判685-16(№16の控訴審)

【採用された算定方法】ゴードンモデル法+純資産法+類似会社比準法(2対1対1)

その他 現時点では、会社の将来の収益の急激的な低下が避けがたいとしても、将来の収益の予測は本件株式の売渡請求時点において合理的に予測しうる範囲においてすべきである

東京高決S59.6.14・判時1125-164

【採用された算定方法】純資産法のみ

会社の特徴 売渡請求時の会社の純資産額約1600万円(裁判所算出)、発行済株式総数4000株、株式譲渡制限有
株主の特徴
その他 記録上認めうる会社の業種、規模、人的構成、株式の支配状況、その他一切の事情に照らして、純資産方式のみによる算定結果が具体的合理性を有する

東京高決S59.10.30・判時1136-141

【採用された算定方法】純資産法+類似会社比較法(1対1)

会社の特徴 印刷業、売渡請求時直近の当期利益は約676万円、資産(簿価)は約23億5000万円、負債(簿価)は約21億4000万円、発行済株式総数240万株、非上場、株式譲渡制限有
株主の特徴 非支配株主
その他 先に本件株式の買受希望者に対し、将来本件株式を一定の価格で売渡す旨の売買の予約が締結されていたとしても、本件株式は取引所に上場されていないのであるから、その株価の決定については取引市場における需要供給の関係を考慮することができず、前記のような偶然の取引事例をもって本件株価算定について考慮に入れることはできない

京都地決S62.5.18・判時1247-130

【採用された算定方法】純資産法+類似会社比較法+収益還元法+配当還元法(2対1対1対1)

会社の特徴 京都西陣の織物製造販売業、同族会社、発行済株式総数1000株、株式譲渡制限有
株主の特徴 支配株主
その他 上記のような方法の加重平均値を基準値とすることを相当とする根拠の一つとして、当事者双方が経営支配株主であること及び過去の売買成立時の価格を考慮する

福岡高決S63.1.21・判タ662-207

【採用された算定方法】配当還元方式を基礎とし、類似会社比準法と収益還元方式を併用

会社の特徴 鮮魚卸売業、資本金1億7600万円、昭和59年度の売上高は672億円余りで概ね順調な営業成績を挙げている、発行済株式総数35万2000株、従業員数185名、株主数329名、非上場、株式譲渡制限有
株主の特徴 全株式の約3%を保有する元従業員(非支配株主)
その他 会社の取扱う業務内容の将来における収益力の予想、及び本会会社が類似会社と比較して内部留保利益の比率が高く、その分配当の潜在的能力が高いことを加味して評価を修正することは合理性がある

仙台高判S63.2.8・判タ664-199

【採用された算定方法】純資産価額法が妥当であると判示

会社の特徴 発行済株式総数18万株、純資産額約9000万円、株式譲渡制限有
株主の特徴

大阪高決H1.3.28・判タ712-229

【採用された算定方法】ゴードンモデル法

会社の特徴 創業者がある修養団体に魅かれ設立した会社で、その教義に賛同・理解を示す者のみを出資者・従業員として迎え入れることを旨とする、株式譲渡制限有
株主の特徴 非支配株主
その他 会社の経営支配力を有しない買主にとっての株式の評価に当たっては、配当利益が原則的要素となるが、現在及び将来の配当金の決定が多数者の配当政策に偏ってなされるおそれや、配当利益により算出される株価が会社資産の解体価値に満たない場合もありうるので、多数者と少数者の利害を調整して公正を期するため、解体価値に基づき算出される株式価格は株価の最低限を画する意義を有する
会社が収益力を欠く、将来の配当の予測ができない、近く解体が予定されている、協同組合的性質を有するなど特段の事情がある場合には、非支配株主の株式評価に当たっても二次的に会社の資産価値を算定要素として使用・併用すべき場合があるが、本件ではそのような事情はない
収益還元方式については、純利益の中には内部留保として新たな設備投資などにつぎ込まれ、株主に対し直接経済的利益をもたらさないものが含まれている点などに疑問があり、少なくとも配当政策等企業経営を自由になしえない本件のような非支配株主の株価算定には適当でない
国税庁長官通達による類似業種比準方式は、国家と国民の公権力の行使関係を律する基準であって、本件のように、私人間の具体的個別的利害対立下で公正適正な経済的利益を当事者に享受させようとする旧商法204条の2第2項の理念とは異なるうえ、標本会社の公表がなく類似性の検証が不可能であることなどから、本件のような譲渡制限株式の売買価格決定の根拠とすることは適当でない

東京高決H1.5.23・判タ731-220

【採用された算定方法】配当還元法+簿価純資産価額法+収益還元法(6対2対2)

会社の特徴 洋品雑貨の販売業等、代表取締役とその一族が80%の株式を保有する同族会社、業績好調で過去4期は毎期約63億円から約74億円の売上を有し、約5000万円から約2億9000万円の税引後当期利益を上げている。売上高の半分以上を占める紳士用装身具の卸売業界において売上高第1位の地位にある、配当額を抑え収益の相当部分を社内留保してきた、非上場、株式譲渡制限有
株主の特徴 譲渡しようとする者は、対象会社の下請け会社の経営者であり、買受ようとする者らが取得する株式は、併せて総株式の約9%であり、非支配株主となる
その他 本件取得者は、会社の経営支配権を取得できないのであり、配当金を主たる目的とせざるを得ないから、基本的には配当還元法が妥当である
しかし、配当還元方式の採用に当たっては、過去の配当額に依拠せざるを得ないところ、本件会社においては、配当額が低く抑えられてきたことに加え、本件会社のように同族会社的色彩が濃厚で少数者による支配が確立している会社では、配当額の決定は経営担当者や支配株主の経営政策に依拠するところが多く、それ自体不確定要素が強い。一方で、支配株主が全く恣意的に配当額を決めることは許されず、支配株主の意思も不変ではないから、過去の配当額に多くを依拠する配当還元方式のみによることは不十分であり、資産価額方式、配当還元方式をも併用するのが相当である
さらに、本株式数は、別件において売渡を受けた2000株と合わせると少数株主権の全部の行使を可能とするもので、譲受予定者は配当利益のみに関心を抱くものではないことや、対象会社と譲渡を受けようとする者との関係からすると、対象会社の代表取締役が将来において本件株式を取得する可能性が少なくない(過去にも株式を売却した事実がある)などの事情を斟酌すれば、上記の割合による算定が相当である

東京高決H2.6.15・金判853-30

【採用された算定方法】配当還元法+時価純資産法(7対3)

会社の特徴 電気計器並びに測定器の製造販売業、直近1年の純売上高は約14億2500万円、経費を控除した売上利益は約8200万円、登記利益金は約3400万円、従業員100名、株式譲渡制限有、発行済株式数18万4800株
株主の特徴 非支配株主
その他 本件においては、譲渡対象となった株式は、発行済株式総数のわずか0.16%に過ぎず、経営支配権の消長に影響がないから、収益還元方式は採用できない
名目資本と実質資本の乖離が著しい本件においては、簿価純資産方式を採用することは妥当でない
売買当事者が配当のみを期待する一般投資家である本件においては、配当還元方式が最も合理的な算定方法であるが、株式は配当をもたらすものであると同時に、会社の資産を発行済株式総数で除した価値を表象するものであるから、株価算定に当たってこの点を無視することはできない。そして、この株式が会社の資産を化体しているとの観点から株価を算定する場合には、時価純資産方式によるべきであるが、この方式は、会社が継続しているにも関わらず、解散・清算したと仮定して評価するものであるから、これのみで株価を算定することは妥当でなく、配当還元方式の修正要素と考えるべきである

千葉地判H3.9.26・判タ773-246

【採用された算定方法】配当還元法+純資産法(1対1)

会社の特徴 空港関係運送業、最終の貸借対照表上の現存純資産額は約1億4000万円、従業員は約300名、直近3年の売上高は約17億4000万円から約30億5000万円、税込利益は約4300万円から8100万円で増収を続けている、株式譲渡制限有
株主の特徴 譲渡を求めているのは、設立当時からの原始株主で最近まで、会社の専務取締役ないし常務取締役であった者
その他 本件では、貨物運送業の中でも空港関係の運送を業とする点で特殊性があり、類似会社比準法の採用は困難である
本件会社の利益配当率は安定し、年々業績が伸長していることも合わせると将来においても同様の配当を維持できる可能性が高く、配当還元方式に適する場合である。ただし、譲渡株式数が発行済株式総数の10%に当たることから、譲受人において会社役員として経営に参加できる可能性もあり、その場合に得られる役員報酬は株式配当金より相当高額となることを考慮すると、配当のみを期待する一般投資家とやや異なる面があるから、配当還元方式のみによるのは妥当でない。
経営に参加できる可能性はあるとしても、10%では、経営を支配することはできないから収益還元方式は適さない
本件会社においては、過去5年の間に4件の1件あたり3000ないし4000株の株式売買の先例があるが、その売買代金はすべて株式の額面通りの1株500円である。非上場で経営参加も期待できない程度の株式数では、株主は配当に期待するしかなく、額面金額で売買されるのも当然であり、当該代金が会社の実質資本を考慮した上で決定されたのでない以上、適切な取引先例か疑わしいから、取引先例方式は採用しない
純資産価額方式は、買取額は会社の資産状態その他一切の事情を斟酌して決定すべきとする旧商法の規定からしても、買取価格の決定にあたり第一に考慮されるべき方式である
原始株主である譲渡人の所得には、実質上の賃金と役員報酬の双方が含まれていると考えられ、譲受人において、所有株式に基づき取締役の地位を得ることができたと仮定しても、譲渡人と同等の役員報酬を得られるとの保証はないことから、譲渡人の給与所得中4割を役員報酬と推定し、これも配当金の変形であるとみなした
純資産額については、原則として直近の決算期における貸借対照表上の金額によるが、簿価と時価の乖離の著しいことが顕著な土地の価額についての未鑑定によって認められる客観的価値による

札幌高決H17.4.26・判タ1216-272

【採用された算定方法】配当還元法+純資産法+収益還元法(1対1対2)

会社の特徴 酸素ガス製造・その他高圧ガスの製造販売業、資本金8000万円、発行済株式総数16万株、同族会社で当該会社代表者は同族関係者及び別会社を通じて約54.4%の株式を保有、非公開、株式譲渡制限有
株主の特徴 譲渡対象となったのは、発行済株式総数の6%(非支配・少数株主)、会社は買受人と指定
その他 売手の立場からは、株式売買は売手がこれまで顕在的に行使していた利益配当請求権と潜在的に有している残余財産配当請求権を換価する側面があることから、売手にとって最も合理的は評価方式は、配当方式と純資産方式の併用であり、両方式に差をつける根拠はないから、その平均値とするのが相当である。他方、買手の立場からは、本件の買手は会社自身であり自己株式の取得となることからすれば、配当を期待するものではないから配当方式を採用することも相当ではない。そこで、継続企業の動的価値を現すもっとも理論的な方法は、収益方式であり、買手からはこの方式を用いて算定するのが合理的である。以上の売手と買手の立場を総合的に勘案するため、双方の立場が対等であることを前提として、双方にとって相当な評価方式を1対1で評価価格に反映させるのが相当である

大阪地堺支決S43.9.26金判363-11

【採用された算定方法】相続税財産評価基本通達の類似会社比準法のみ

会社の特徴 菓子食料品の製造加工販売業、同族会社、非上場、株式譲渡制限有
株主の特徴
その他 会社には、役員及び一定役職以上の役付従業員で構成される相互扶助組織があり、会員には「功労株」を額面で割り当てることができ、退会時には、額面価格で当該組織に譲渡しなければならないとの定めがあり、過去にこれに従って数件の譲渡がされているが、これは「功労株」回収についての特別の内部的規約に基づくものであり、取引の先例として適切でない
帳簿価格と実質上の価格に大差ないことにつき当事者間に争いのない本件では、純資産額は帳簿価格を基準としてよい

東京地判H4.9.1判タ831-202

【採用された算定方法】純資産価額法を基本にしながら、会社の資産状態、収益状態、配当状況、株式の流通性などの修正要素を加味し、公正な価額を決定するのが適切

会社の特徴 繊維業、発行済株式総数18万株、経営状態は芳しくない、従業員組合が経営に参画し、発行済株式総数の40%を保有、非上場
株主の特徴
その他 本件会社においては、従業員組合が総株式の40%を保有して、経営にも参加しているなど、従業員による管理会社ともいうべき特異な会社であり、株式の流通性・譲渡性は通常の非公開会社、閉鎖会社と比べても著しく低いことを価格決定に当たって考慮すべきである

東京地判H7.4.27判時1541-130

【採用された算定方法】DCF法と純資産法

会社の特徴 料理飲食業、結婚式場経営等を行う合資会社、
株主の特徴 退社に伴い持分の払戻を求める者
その他 本件のように資産中にバブル部分を多く含んでいる場合、収益方式をより妥当とすべき事情があるといえる
合資会社社員の退社による持分払戻には、組合的色彩を残すものとして、会社財産の一部清算という側面があると見ることも可能であることに加え、収益方式は、将来収益の予測という不確定的な要素に依存し、採用された資本還元率のわずかな差で評価額に大きな違いが出てしまうという欠点のあることも考慮して、純資産方式を併用する

大阪高判H11.6.17金判1088-38

【採用された算定方法】純資産法+類似会社比準法(1対1)

会社の特徴 タクシー事業及び貸切バス事業、発行済株式総数10万株、株式譲渡制限有
株主の特徴 譲渡しようとする者は、対象会社の下請け会社の経営者であり、買受ようとする者らが取得する株式は、併せて総株式の約9%であり、非支配株主となる

札幌地判H14.2.15労判837-66

【採用された算定方法】収益還元法+配当還元法(3対1)

会社の特徴 建築材料の卸販売並びにタイル工事の設計請負等
株主の特徴 持株会からの退会により株式の払戻をする者
その他 退職日が平成12年3月20日である本件において、平成10年10月23日時点価に関する算定結果をそのまま基礎とすることは、平成12年決算期に営業利益と経常利益が前期に引続き悪化し、設立以来初めて無配に転じた本件では是認できない

東京高判H20.9.12金判1301-28

【採用された算定方法】市場価格法

会社の特徴 全部取得条項付き種類株式による強制取得の事案
株主の特徴
その他 本件取得日と上場廃止日がわずか11日しか離れていない本件株式の評価に当たっては、異常な価格形成がされたなど、市場株価がその企業の価値を客観的に反映していないと認められる特別の事情のない限り、本件取得日に近接した一定期間の市場株価を基本として、その平均値をもって本件株式の客観的価値と見るのが相当である
TOB発表後の市場株価は、「買付価格の影響を受けて、いわばこれに拘束されて形成されたものであることが明らか」であるから、レックスの客観的価値を反映しておらず、算定基礎から除外する
業績予想の下方修正後の価格につき、株価を下げる目的の公表でないこと、下方修正の原因は資産の評価替えや特別損失の計上が主で、実質的な企業価値の毀損はないこと、一方で公表の仕方は適切でなく市場が悲観する可能性あるが、公表内容そのものは実態を反映していることを考慮して、算定基礎期間に含めた
日本証券業協会「第三者割当増資の取扱いに関する指針」が払込期間の算定期間を最長6か月としていることに加え、業績を下方修正するプレスリリースにより株価が暴落した点を指摘し、「本件において、市場株価の平均値を算定する基礎となる期間を短期に設定することは相当とはいえない」として、6か月の平均を基礎とした。
公正な価格を決めるにあたっては、強制取得により失われる今後の株価の上昇に対する期待を評価したプレミアムをも考慮するのが相当である。そして、平成12年から平成17年までの間に日本企業を対象とした公開買付けの事例(119例)では、プレミアムの平均値は、公開買付公表日直前の株価の終値の12.6%にとどまるが、市場株価を下回る買付価格を設定した公開買付けは、相対取引の実質を持つことから、これを除いた85例についてプレミアムの平均値を取ると、公開買付公表日直前の株価の終値の27.05%に達するとして20%のプレミアムを認めた。一方でMBOによる企業価値の増加分は勘案しないとした

東京地判H20.3.14判タ1226-120

【採用された算定方法】DCF法のみ

会社の特徴 各種繊維工業品、医薬品、化粧品等の製造販売を目的とする、本件公開買付の約2年前から産業支援機構の支援のもとで再生開始、本件公開買付の約10か月前に上場廃止
株主の特徴 本件公開買付により、議決権ある発行済株式総数の約82%を保有することになった者
その他 産業再生機構の支援のもと事業再生を行っていた本件会社においては、配当を行える状況になく、一般に妥当とされる配当額を求めることは困難であることや、成長性や成長率が必ずしも明確でないことからすれば、株価算定に当たって、配当還元法を考慮することは妥当でない
最近まで産業再生機構の支援を受けていた事業再生途上の本件会社と一般の上場会社とは経営状況が大きく異なるから、類似会社比準方式を採用することは相当でない