1. インカムアプローチとは
将来期待される経済的利益について、当該利益実現のために見込まれるリスク等を反映させた割引率で現在価値に割引きして株主価値を算定する方法です。
DCF法、APV法、収益還元法、リアルオプション法がありますが、代表的なものはDCF法です。
2. DCF法とは
(1) DCF法について
DCF法では、まず、事業計画に基づく将来キャッシュフローを算定し、当該将来キャッシュフローを現在価値に割引きして算出します。
具体的には、1年目から5年目までの各年のキャッシュフローを予測し、6年目以降のキャッシュフローを一括して予測します。
これを現在の価値に割引きして事業価値を算定し、余剰現預金と非事業用資産を加算して企業価値を算定し、有利子負債を控除して株主価値を算定します。
(2) キャッシュフローとは
キャッシュフローとは、現金収支のことを意味し、当該期中において、対象会社が営業活動、投資活動、財務活動により、現金をどのようにしてどれだけ増減させたかを明らかにするものです。
キャッシュフローについては、簡略的に「税引き利益?配当金?役員賞与+減価償却費」として算出されることが多いようですが、M&Aの場面では、キャッシュフローの内容は3つに分けて定義され、当該ケースに応じたキャッシュフローの算式で算出することになります。
事業キャッシュフロー
算式:EBIT(支払利息控除前税引前利益)×(1?税率)+非現金支出費用(減価償却費)?設備投資額?運転資本増加額
事業キャッシュフローは、単にフリーキャッシュフローとも呼ばれることがありますが、財務活動は含めずに、営業活動と投資活動からなるキャッシュフローを考慮して算出されます。
株主キャッシュフロー
算式:税引後利益+非現金支出費用(減価償却費)?設備投資額?運転資本増加額?借入金返済+新規借入金+新株発行増資?資本償還?優先配当金
株主キャシュフローは、エクイティーキャッシュフローと呼ばれることもありますが、対象会社の借入金、社債、優先株のような債務や普通株式以外の株式を完済した後に残った普通株主に対する配当金や将来の設備投資のための原資となるキャッシュフローをいいます。
総資本キャッシュフロー
算式:事業キャッシュフロー+支払利息の節税効果の現在価値
総資本キャッシュフローは、株主キャッシュフローと債権者キャッシュフローを合算したものをいいます。
(3) 割引率とは
割引率は、投資家が要求する投資のリスクに見合う最低限の利回りを意味し、かかる利回りは、投資を受ける側からすれば投資家に支払うべきコストを意味するので、資本コストとも呼ばれます。
自己資本コスト
自己資本コストは、投資家が対象企業の株式を取得するときに期待する投資利回りを意味します。自己資本コストは、次の算式で算出します。
算式:リスクフリーレート+β×(株式リスクプレミアム)
リスクフリーレートとは、リスクフリーの投資利回りを意味し、通常、債務不履行の可能性がない長期国債の利回りが用いられます。
β値は、市場全体のリターンの変化に対する対象会社のリターンの変化の尺度を示す指標です。具体的には、対象会社の株式利回りと株式市場全体の株式利回りの共分散を株式市場全体の分散で除して算定します。
上場企業のβ値は、東京証券取引所などで公表されていますが、非上場企業の場合は、同業種の公開会社の中から類似した会社を数社選定し、その平均値を当該非上場企業のβ値と推定します。
株式リスクプレミアムとは、株式市場に投資することによってリスクフリーレートを超えてどれだけ高い投資利回りを期待できるかを示す指標であり、通常、マーケット全体のインデックスで表わされます。
M&Aにおける投資は、長期投資を前提としていますので、長期間のリスクプレミアム過去実績が使用され、一般には、過去30年から50年の株式市場のヒストリカルリスクプレミアムとして、5%台から7%台を採用するケースが多く見受けられます。
他人資本コスト
他人資本コストは、負債コストとも呼ばれ、対象会社の長期借入金や有利子負債の資金コストを意味します。
負債コストは、対象会社の借入金に対する支払利息の支払実績に基づいて算出されるケースが多く見受けられます。支払利息は、税務上損金処理されますので、その分コストは低減されますが、負債コストには、対象会社のデフォルトリスクも考慮して決定される必要があります。
優先株式コスト
優先株式は、普通株式に優先して配当金が支払われる一方、負債の利息とは異なり利益が発生しない限り、配当金は支払われませんので、負債よりコストが高く、普通株式よりコストが低いといえます。
通常、優先株式の評価額に対する優先配当金の比率によって表わされます。
加重平均コスト(WACC)
WACCは、投資家が対象会社の株式の他に優先株式や有利子負債を買い取っても見合うと想定する最低の期待利回りを対象会社が生み出している場合に、その最低の期待利回りを意味します。
従いまして、WACCは、自己資本コスト、優先株式コスト、他人資本コストを自己資本、優先株式、他人資本の時価によって加重平均することによって算定されます。
(4) DCF法の種類
エンタープライズDCF法
エンタープライズDCF法は、事業キャシュフローを税引後WACCで割引いて算定する方法であり、最も一般的なDCF法です。
この評価方法は、事業のファイナンス構造に関係なく評価額を決定することができるため、一般事業会社の評価に多く用いられています。
エクイティDCF法
エクイティDCF法は、株主キャッシュフローを、自己資本コストで割り引いて算定する方法です。
この評価方法は、一般事業会社にはあまり適用されておらず、事業のために使用される資本コストを見積もることが難しい金融事業の評価に適用されることが多くあります。
(5) 成長モデル
DCF法の算定にあたっては、将来キャッシュフローの成長率をどのように考えるかという問題があります。
ゼロ成長モデル
ゼロ成長モデルは、キャッシュフローが一定額で永久に続くことを前提とする方法です。
一定成長率評価モデル
一定成長率評価モデルは、キャッシュフローが一定比率で永久に成長することを前提とする方法です。
このモデルは、安定した成長率が見込まれる成熟産業に所属する企業によく適用されます。
変動成長評価モデル
変動成長評価モデルは、キャッシュフローが将来変動して成長することを前提としています。
当初一定期間は高成長が見込まれ、その後成長率が低くなることが予測される企業によく適用されます。
3. APV法とは
APV法(修正現在価値評価方法)とは、事業資産の全額を自己資本で調達した場合の事業価値と支払利息節税額の現在価値の総和によって算定する方法です。
この評価方法は、LBOによって取得しようとする事業の買収価格を算定する場合に多く採用されます。