事業承継とは、推定相続人の一人あるいは複数の者に対して事業の全部あるいは一部を承継することをいいます。

事業資産を後継者に集中的に承継できないために廃業に追い込まれる中小企業が相当数ある現状を踏まえて、中小企業における経営の円滑化に関する法律(一般には、「中小企業経営承継円滑化法」と呼ばれています。)が制定されました。

中小企業経営承継円滑化法では、事業承継に際しての相続の遺留分に関する規定に特例が設けられ、推定相続人が事業を承継するにあたり必要となる資金を支援する金融支援措置に関する規定が設けられています。

1. 遺留分の特例

相続の遺留分に関する規定の特例とは、先代経営者から贈与などにより取得した自社株式や一定の財産について遺留分算定の基礎財産から除外することを、事業の後継者と、先代経営者の遺留分を有する推定相続人全員との間で合意することによって、遺留分算定の基礎財産から除外してもらう制度のことです。 ここで、後継者が合意をとりつける相手は、遺留分を有する推定相続人ですので、先代経営者の兄弟姉妹を除く全ての推定相続人ということになります。

後継者が先代代表者から贈与などにより取得した株式などを、遺留分算定の基礎財産から除外することの合意を得ることができれば、贈与などにより承継された株式などは、遺留分算定の際の基礎財産に参入されず、遺留分減殺の対象とはなりません。この結果、先代代表者の相続により株式等が分散されずに済み、後継者による会社経営が円滑に行うことができるのです。

ただし、この制度を利用するためには推定相続人全員の同意が必要であり、推定相続人のうち一人でも反対する者がいると成立しません。

また、一定の中小企業については、株式や持分につき相続税の80%について納税の猶予を受けることができ、相続人が死亡するときまでその株式や持分を持ち続けた場合には猶予された税金の納付が免除されます。

相続税の納税猶予・免除制度は、相続税が負担となって事業を承継することができないという不都合を回避し、税制面から事業承継をサポートする制度です。

2. 金融支援措置

金融支援措置の内容としては、非上場会社や個人事業主は、信用保証協会で保証を行ってもらい金融機関から借入れを行うことができ、非上場会社については、これに加えて、日本政策金融公庫から代表者個人の名義で低利の融資を受けることができます。

3. 相続税納税猶予・免除

一定の中小企業については、株式や持分を相続や遺贈によって取得した場合の相続税の80%について納税の猶予を受けることができます。

そして、事業を承継した者が、相続人死亡のときまでその株式や持分を保有し続けた場合には猶予税額の納付について免除を受けることができます。なお、この納税猶予の制度は、平成21年の税制改正によって実施されましたが、平成20年10月1日以後に開始した相続に遡及適用されます。

遺留分の特例には、遺留分算定の基礎財産から除外する制度と贈与株式等の評価を予め固定できる制度があります。
なお、これらの制度は、現実に贈与や遺贈を受けている場合にのみ適用され、将来贈与や遺贈を受けることを見越して利用することはできません。

1. 遺留分算定の基礎財産から除外する制度

先代経営者から贈与などにより取得した自社株式や一定の財産について、遺留分算定の基礎財産から除外することを、事業の後継者と、先代経営者の遺留分を有する推定相続人全員との間で合意することによって、遺留分算定の基礎財産から除外してもらう制度です。贈与等された株式等は、遺留分算定の際の基礎財産に参入されず、遺留分減殺の対象とならないため、相続により株式等が分散されず後継者に株式等を集中することができるのです。

遺留分を有するのは、先代経営者の兄弟姉妹を除く全ての推定相続人ですので、兄弟姉妹を除く全ての推定相続人の同意が必要となり、これらの者の理解が前提となります。
また、遺留分の特例制度の適用を受けるためには、経済産業大臣の確認を得た上で、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。本制度が、後継者となる推定相続人により遺留分を奪うための手段として悪用されないように、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を要件としたのです。

2. 贈与株式等の評価を予め固定できる制度

遺留分の算定に際して算入すべき生前贈与などによって取得した株式の価格について、事業の後継者と、先代経営者の遺留分を有する推定相続人全員との間で合意することによって、取得した株式の価格を合意時の評価額に固定する制度です。

後継者が先代代表者から贈与などにより取得した株式などの価格を合意時に固定することによって、後継者が株式などを譲り受けてから先代代表者の相続が開始するまでの間に、後継者の努力によって株式などの価値が大幅に増加したとしても、合意時の価格に固定されているため、後継者の努力により増加した価値は後継者が独占することができるのです。他方、後継者がいくら努力しても経営環境の変化により会社の業績が悪化し、先代から承継したときよりも株式などの価値が大幅に下落することも考えられます。このような場合には、株式などの評価額を合意時点で固定したために、相続が開始時における他の推定増続人の遺留分が逆に大きくなってしまうことになります。

この制度においても、遺留分を有する推定相続人の同意が必要ですので、先代経営者の兄弟姉妹を除く推定相続人全員の同意が必要になります。また、経済産業大臣によって合意内容などを確認してもらい、家庭裁判所の許可を得る必要があります。

また、合意時の価額は、弁護士等の専門家が「その時における相当な価額として証明したもの」であることが必要になります。

1. 利用できる中小企業

贈与株式などを遺留分算定の基礎財産から除外できる制度や、贈与株式の評価を予め固定できる制度を利用できる中小企業は、3年以上継続して事業を行っていることが前提となり、業種、資本金、従業員の数によって決定されます。

業種 資本金 従業員
製造業 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 300人以下
小売業 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下

中小企業は、株式会社に限らず、合名会社、合資会社、合同会社も含まれます。

2. 先代経営者

先代経営者は、現在あるいは過去に代表権を持っている者である必要があります。
「現在あるいは過去」とされていますので、既に代表者を退任している方や、承継者とともに代表権をもっている場合も含まれます。しかし、現在も過去も代表権を有していた事実がない専務取締役等は、先代経営者に含まれません。

「先代から贈与を受けた者、その者からさらに相続、遺贈、贈与を受けた者」となっていますので、祖父が父に株式を贈与していたところ、父が亡くなりその子が株式を相続等で取得した場合も含まれます。

3. 承継者

承継者は、遺留分を有する推定相続人です。
承継者に第三者が含まれていてもよいのですが、その場合には承継者を複数人とし、その一人に遺留分を有する推定相続人を含ませておく必要があるのです。ここで注意を要するのは、遺留分を有する推定相続人を少なくとも一人含ませておく必要がある点です。先代経営者の兄弟姉妹は、推定相続人ではありませんので、承継者が先代経営者の兄弟姉妹のみである場合や、先代経営者の兄弟姉妹と第三者である場合には、贈与株式などを遺留分算定の基礎財産から除外できる制度や、贈与株式の評価を予め固定できる制度を利用することはできません。

合意の内容

合意すべき内容としては,以下の4つの事項があります。
  1. 後継者が贈与を受けた株式等を遺留分算定の基礎財産から除外すること
  2. 後継者が贈与を受けた株式等の評価額を合意時点で固定すること
  3. 後継者が贈与を受けた株式等以外の財産や非後継者が贈与を受けた財産について遺留分算定基礎財産から除外すること
  4. 後継者が代表者を辞任した場合や,株式を処分してしまった場合の措置
推定相続人との合意内容は最低限?あるいは?を定めることになります。なお,1,2についてはいずれか一方のみを合意することもできますし,両方について合意することもできます。 また,付随的に合意する事項として3,4の事項があります。

非後継者である推定相続人から1や2について同意を得るためには,非後継者である推定相続人に対して何らかの見返りを与える必要があります。

見返りとしては,後継者から非後継者に対して一定額の金銭を支払う,あるいは,先代代表者の生活や療養看護を行う等が考えられます。
そして,そのような見返りとして付与した財産についても後継者が贈与を受けた株式等を遺留分算定の基礎財産から除外すること,後継者が贈与を受けた株式等の評価額を合意時点で固定することの合意をすることができ,かかる合意がある場合には合意のとおり効力を発生させることができます。

さらに,先代経営者の推定相続人らが,予め協議しておくことにより4の事項を定めることができます。

法律では,非承継者がとるべき措置を定めておらず,推定相続人らが合意書を作成する際に決定することになります。
とりうる方策としては,非承継者による合意解除,一定の違約罰を支払わせるということが考えられます。

また,合意は,口頭による合意では足りず,書面によって合意が必要となります。

この制度は,民法で保障された遺留分について重大な変更を加える制度ですので,推定相続人に慎重な判断を行ってもらうという意味で書面による合意を必要としているのです。

承継の対象となる財産

承継の対象となるものに先代経営者が有する会社の株式及び持分があります。

遺留分に関する特例は,株主が分散することで会社経営が円滑にできなくなることを防止するための制度ですので,制度を利用できる者は,議決権を有する株式や持分の過半数にあたる株式や持分を承継することが前提となっています。

また,会社経営が円滑にできなくなることを防止するための制度ですので特定の事項についてのみ議決権がある株式(種類株式)は対象となりますが,議決権が全くない株式(無議決権株式)については対象となりません。

株式や持分に限定されず,会社が使用している不動産や事業資金として使用する現金等の事業に供する財産であれば承継の対象となります。

金融支援措置

経済産業大臣の認定を受けた非上場会社や個人事業主は,信用保証協会で保証を行ってもらい金融機関から借入れを受けることができ,認定を受けた非上場会社については,日本政策金融公庫から代表者個人の名義で低利の融資を受けることができます。

先代経営者が死亡したような場合には,相続人に分散した株式や持分,事業用資産を買取る必要があります。
また,突然の代表者の交代により債権の回収が思うように行かない一方で,支払いについては期日どおり行う必要があります。
さらに,代表者の交代により取引先から支払いサイトを短縮されることもあります。

このように,事業が承継されるときには,様々な理由により資金需要が高まるのが一般的で,事業者の資金需要に応えるために設けられました。
信用保証協会の保証付融資制度
経済産業大臣の認定を受けた非上場会社や個人事業主は,中小企業信用保険法に規定されている普通保険(限度額2億円),無担保保険(限度額8000万円),特別小口保険(限度額1250万円)については別枠化され,信用保証協会の保証のもと金融機関からの借入れができるのです。 借入金の使途については,主に,株式や事業用資産等の買取資金や信用状態が低下している中小起業者の運転資金等となっています。
日本政策金融公庫からの融資制度
経済産業大臣の認定を受けた中小企業(会社)の代表者個人が受けられる融資です。この融資の利点は,特別金利による融資が受けられるという点です。 資金使途については以下のように限定されています。 先代代表者が事業の用に供されている個人資産を担保として会社の事業資金を借入れている場合の返済資金
  1. 後継者個人が株式等や事業用資産等を買い取る場合に必要となる資金
  2. 先代経営者の相続に関して,後継者を含む相続人間で,以下に掲げるいずれかを内容とする?判決の確定,?裁判上・裁判外の和解,?審判の確定,?調停の成立により,後継者が負担した債務を支払うために必要な資金
    • a 先代経営者からの相続にあたって,遺産に株式等や事業用資産等が含まれる場合に,後継者がこれらの資産を取得するために,非後継者にその代償として金銭を支払うこと
    • b 先代経営者からの相続にあたって,株式等や事業用資産等を相続若しくは遺贈又は贈与により取得したことによって非後継者の遺留分を侵害したため遺留分減殺請求を受けた場合に,非後継者にこれらの資産を返還する代わりに金銭を支払うこと
  3. 後継者が相続若しくは遺贈又は贈与により先代経営者から取得した中小企業者の株式等や事業用資産等に課される相続税や贈与税を納付するための資金
  4. 以上の他,中小企業者の事業活動の継続のために,後継者個人が特に必要とする資金

相続税軽減措置

中小企業基本法上の中小企業であって,非上場会社であること,資産管理会社でないことなどの要件をみたす会社の株式や持分を相続や遺贈によって取得した場合の相続税については,税額の80%をについて納税の猶予を受けることができ,相続人が死亡するときまでその株式を保有し続けた場合などに猶予税額の納付を免除されます。 この納税猶予の制度は,平成21年の税制改正によって実施されるのですが,平成20年10月1日以後に開始した相続に遡及適用される予定になっています。
中小企業基本法の中小企業
中小企業基本法の中小企業とは,以下の会社及び個人をいいます。
業種 資本金 従業員
製造業・建設業・運輸業等 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
小売業 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
資産管理会社の適用除外
中小企業基本法の中小企業には資産管理会社は除かれます。 ここで,資産管理会社とは,「簿価ベースで,有価証券,不動産,現預金等の合計額総資産の70%を占める会社」,「これらの運用収入の合計額が総収入金額の75%以上を占める会社」をいいます。 ただし,有価証券,不動産などを用いて事業を営んでいる会社は資産管理会社から除かれます。

「有価証券」とは,国際証券,地方債証券,株券,その他の金融商品取引法2条1項に規定する有価証券と他の持分会社の持分となります。

「不動産」とは,所有不動産のうち,自ら使用していないものとなります。遊休地として放置している土地や,第三者に賃貸している土地,建物がこれにあたります。たとえば,従業員の社宅は自己使用になりますが,役員用の住宅は第三者に対する賃貸と判断されます。なお,不動産賃貸業を営んでいる会社は,上記の条件に該当し資産管理会社に該当する可能性がありますが,一定の要件をみたせば資産管理会社にみなされません。

有価証券や不動産,現預金以外にも,ゴルフ会員権,スポーツクラブ会員権,リゾート会員権などの施設利用に関する権利,絵画,彫刻,工芸品,陶磁器,骨董品,宝石,貴金属も含まれます。
ただし,上記の会員権,絵画,宝石,貴金属等を販売する目的で所有しているものは除きます。

そして,代表者や代表者の同族関係者に対する貸付金・未収金は,保有する現預金を計算する際に加算されることになります。
その他の適用除外
その他に,直近の事業年度における損益計算書上の総収入金額が0の場合,常時使用する従業員(使用人兼役員も含まれます。)がいない場合,風俗営業会社や,特別子会社が上場会社や大法人などの場合にも猶予を受けることができません。
計画的な承継にかかる取組
相続税の軽減措置を受けるには計画的な承継にかかる取組をおこなっていることについて経済産業大臣の確認が必要となります。

ただし,平成20年10月1日から平成22年3月31日までは施行直後であることとの関係で確認をとる必要がありません。また,相続や遺贈により株式や持分を承継させる被相続人が60歳未満の者である場合も不要です。さらに,公正証書遺言による相続または遺贈により,発行済議決権株式総数の50%を超える株式や持分を保有するに至った場合にも不要とされています。

経済産業大臣の確認を得る必要がないようにするために公正証書遺言を作成しておくメリットは高いと言えます。
被相続人の要件
被相続人が以下の要件を満たす者でなければなりません。
  • 納税猶予を受けることができる会社の代表者であったこと
  • 被相続人と同族関係者で発行済議決権株式や持分の総数の50%超の株式や持分を保有しており,同族内で筆頭株主,あるいは持分を有する者であったこと
後継者の要件
  • 納税猶予を受けることができる会社の代表者であること
  • 被相続人の配偶者,6親等内の血族,3親等内の姻族であること
  • 後継者と同族関係者で発行済議決権株式や持分の総数の50%を超える株式や持分を保有しており,同族内で筆頭株主,あるいは持分を有する者であること
相続後の条件
  • 相続後5年間事業を継続すること
  • 相続後5年間,相続や遺贈を受けた人が代表者であり続けること
  • 相続や遺贈で承継した株式や持分を保有し続けること
  • 相続後5年間,雇用の8割以上を維持し続けること
ここで,雇用については厚生年金保険や健康保険加入者を基準に判断されますので,パートなどの非正規社員は除かれることになります。
相続税の軽減措置を受けるための手続
被相続人が亡くなられたときに,事業承継にかかる相続税の軽減措置を受けるための申請を行い,経済産業大臣の認定を受ける必要があります。

そして,申請を行う前提として,被相続人の生前に,計画的な承継にかかる取組についての確認が必要になります。ただし,この確認は,平成20年10月1日から平成22年3月31日までは不要とされ,被相続人が60歳未満の者である場合や公正証書遺言による相続または遺贈により,発行済議決権株式総数の50%を超える株式や持分を保有するに至った場合にも不要とされています。

経済産業大臣の認定を受けた後は1年に1回事業継続の報告を行い,確認をしてもらう必要があります。
認定の取消
事業継続の報告時に,相続税の軽減措置を受ける条件をみたしていないときには認定が取消されることになります。 この報告書提出期限は,報告基準日というものが設定され,その翌日から1ヶ月以内に地方経済産業局長に対して提出する必要があり,これが履行されなかった場合には,認定自体が取消されます。 そして,相続税の軽減措置を受ける条件の1つでも欠けた場合には認定が取消されます。なお,経済産業大臣が確認する事項は以下のとおりです。
  • 常時使用する従業員の数が従業員数起算日における数の8割以上を維持しているか
  • 後継者が株式などを譲渡していないか
  • 後継者とその同族関係者で総株主などの議決権数の過半数を有し,同族関係者の中で後継者が筆頭であるかどうか
  • 風俗営業会社になっていないか
  • 資産保有会社となっていないか
  • 報告基準日直近の事業年度の総収入が0でないか
  • 特別子会社が風俗営業会社になっていないか
  • 合併や株式交換などにより組織再編を行った場合の確認
これにより,存続会社において認定の効果を承継させることができます。 報告書の内容に虚偽の内容が含まれている場合にも認定は取消されます。 また,会社が解散したとき,経営を承継した者が死亡,途中で退任した場合,後継者の代表権に制限を加えた場合にも認定が取消されます。ただし,以下の理由により代表者に制限を加えたとしても認定が取消されることはありません。
  • 精神障害者保健福祉手帳(1級)の交付を受けたこと
  • 身体障害者手帳(1級又は2級)の交付を受けたこと
  • 要介護認定(要介護五)を受けたこと
  • 上記に類すると認められること
さらに,会社の重要な決定事項について拒否権を与えた株式(いわゆる黄金株)を後継者以外の株主に発行した場合,欠損填補目的でなく,会社財産の一部を株主に返還するために減資を行った場合にも認定が取り消されることになります。