M&Aが盛んに行われる理由

皆様の中には,M&Aという言葉を聞くと中小企業には関係のない話だと思いこんでおられる方も多いのではないでしょうか。

確かに,マスコミを介して私たちが目にするM&Aは,大企業同士が国内市場で生き残りを賭けて経営統合するといったものや,国際的な競争力を強化するために大企業同士が経営統合する,あるいは国境を越えた合従連衡といったものです。

また,ライブドアによるニッポン放送株,楽天によるTBS株,村上ファンドによる阪神電気鉄道株の大量買付け等の印象が強いためか,M&Aという言葉を聞くと,一方的に会社を乗っ取るものである,あるいは一部の者のマネーゲームであると誤解されている方も多いのではないでしょうか。

マスコミが取り上げるM&Aは,業界や日本経済にインパクトを与えるような大型のものであったり,一般の方も関心をよせるようなセンセーショナルなものであるため,皆様のM&Aに対する印象もそのようなものになっているものと思われます。

しかし,日本で行われているM&Aの7割は,中小企業同士あるいは大企業が中小企業を買収するM&Aであると言われています。
また,中小企業同士あるいは大企業が中小企業を買収するM&Aでは,そのほぼ全てが,両当事者の合意によって行わる友好的M&Aと言われています。

私が弁護士として関わってきたM&Aも,中小企業同士あるいは大企業が中小企業を買収するM&Aで,両当事者が協議に協議を重ねた友好的なもので,私の実感とも一致しています。

では,中小企業同士あるいは大企業が中小企業を買収するM&Aが多く行われる目的はどこにあるのでしょうか。
当然のことならが,M&Aにより事業を譲渡す側と譲受ける側では目的が異なります。
買収される側,すなわちM&Aにより事業を売渡す側の目的を一言で説明すると,手塩にかけて育てあげてきた事業を正当に評価してもらい,かかる評価に見合った対価の支払いを受けることです。
このようなM&Aのことを当社では「ハッピーエンド」と呼んでいます。

M&Aに対する認識が正確でないため,M&Aにより事業を譲渡することを恥と考える経営者が少なくありません。
しかし米国では,事業を譲渡してリタイヤされた方に対しては,「コングラチュレーション」という言葉がかけられます。
米国では,他人に譲渡する価値のある事業を育て上げ,これを譲渡することができるというのは賞賛に値することであると考えられているのです。

日本でも同じことが言えるのでないでしょうか。近時の不況により倒産する会社が多い中で,他社から評価される事業を育てあげ,これを維持して譲渡して対価を受け取ることができるというのは賞賛に値することです。
また,受取った対価で第二の人生を楽しむこともできます。M&Aもこのような視点で見ると,様相の違ったものに見えてくるのではないでしょうか。

次稿以降では,主に中小企業の方を対象としたM&Aの魅力,M&Aの方法などを説明していきます。

代表取締役 冨 宅 恵 

第三者への事業承継としてのM&A

前稿においては,M&Aが大企業や,一部のマネーゲームに興じる人たちだけのものではないこと,日本で行われているM&Aの大半が中小企業を当事者とするM&Aであること,中小企業を当事者とするM&Aでは友好的なM&Aがほとんどであることを説明しました。

では,なぜ,中小企業を当事者とするものがM&Aの大半を占め,それが友好的に行われているのでしょうか。
この答えを得るには,会社を譲渡す側の事情と譲受ける側の事情を理解する必要があります。
本稿では,まず,会社を譲渡す側の事情について説明することにします。

会社を起した者が生きている間に,会社の行方について選択できる方策としては以下の3つしかありません。
  • 上場して会社を多数の株主のものとする
  • 事業を承継する
  • 廃業する
まず,上場して会社を多数の株主のものとする選択肢について検討します。 東京証券取引所などの金融商品市場に上場するためには様々な条件をクリアーしなければならず,仮にこれをクリアーすることができたとしても,上場を維持する中で有価証券報告書等の提出,内部統制報告書の提出をはじめとした煩雑な事務が増加する上に,会計監査人の費用をはじめとした多額の上場維持コストが必要になります。これらをクリアーすることができる会社は,数多く存在する会社のごく一部でしょう。 ですから,これを一般的な選択肢の一つとみることはできません。

次に,廃業するという選択肢について検討します。
会社を起した者が生きている間に廃業して会社財産を処分して株主に配当した場合,会社財産を処分する際と株主に配当する際の2度にわたる課税が待っています。
この結果,株主に配当される財産が2度の課税により大きく目減りしてしまいます。
また,会社を廃業するということは,長年にわたり築き上げてきた得意先などの商圏や非常に優れたノウハウを失うとともに,そこで働く従業員から職を奪い,得意先にも迷惑をかけることになります。
以上のように,廃業するという選択肢は,株主,従業員,得意先などにとってメリットがありません。

残る選択肢は,事業を承継するという方法です。
事業を承継する相手としては,ご子息などの身内,長年にわたり右腕として働いて来られた取締役あるいは従業員,第三者のいずれかです。

ご子息などの身内の方があなたの会社で働いてくれておれば,その方に事業を承継することができ,経営者にとってはベストな選択といえるでしょう。
しかし,最近では,ご子息などが大企業等に勤務しており跡を継ぐ意思がないという話をよく聞きます。
また,経営者のもとで就業しているご子息などがおられたとしても,経験・能力面で,あるいは業界の先行きを考えると,その方に跡を任せるのは不安であるという話もよく聞きます。

また,経営者の右腕として働いて来られた取締役あるいは従業員についても,事業を承継するための資金を用意することができない,金融機関に対して連帯保証を負ってまで事業を承継する心意気がない,あるいは経験・能力面で不安であるなどの理由で事業を承継させることができないという話もよく聞きます。

不幸にも,ご子息などの身内や,長年にわたり右腕として働いて来られた取締役あるいは従業員に事業を承継できない場合には,第三者に事業を承継する以外に方策がないのです。
この第三者への事業承継がまさしくM&Aであり,7割を占める中小企業のM&Aのほとんどが承継者がいない,あるいは承継させることに不安を感じて行われるM&Aなのです。

多くの中小企業が承継者問題を抱え,一説では2社に1社が承継者問題を抱えているとも言われています。 そして,このような会社の選択でM&Aが行われるわけですから,中小企業においては友好的なM&Aが多くなるのです。
代表取締役 冨 宅 恵

M&Aの市場動向

前稿では,多くの中小企業が承継者問題を抱え,第三者に事業を承継するM&Aが行われていることを説明しました。 そして,この結果,日本においてはM&Aのほとんどが友好的に行われていることも説明しました。 当然のことながら,M&Aは,事業を譲渡す会社と事業を譲受ける会社の両社がそろわなければ成立しません。

対価を支払って他社から事業を譲受けようというわけですから,事業の譲受けを検討する会社は,基本的に体力のある会社で,中小企業のみならず大企業も含まれます。
では,このような体力のある中小企業や大企業は,どのような事情で他社の事業を譲受けることを検討するのでしょうか。

他社から事業を譲受けたいと考える具体的事情は実に様々ですが,その目的は売上の増加,上場基準をクリアーするための補強,本業の強化・拡大,新たな事業分への進出に大別できます。

このように,事業の譲受けを検討するのは,基本的に体力のある会社がさらに体力をつけ競争力を確保するためなのです。
比較的順調な会社がさらなる競争力を得るため,他社事業の譲受けを検討しているといことを対外的に表明することは,経営者としても大変誇らしいことです。
他方,事業の譲渡しを検討する事情はどうでしょうか。

長年にわたって立派な事業を育てあげたにもかかわらず適切な後継者がいないという事情は,誇らしげにふれ回ることはできないのではないでしょうか。

このようなM&Aの当事者の事情の差がM&A市場では如実に現れています。

金融機関や証券会社等が仲介を行っているM&A市場では,「このような会社を譲受けたい」,「このような工場が欲しい」,「このようなノウハウをもっている会社を知らないか」という類の話をよく聞きます。ところが,「うちの会社は,こんなに利益を出すことができるにもかかわらず,適切な後継者がいない。」という話はあまり聞きません。

前稿でも説明しましたが,中小企業の2社に1社が後継者問題を抱えていると言われているにもかかわらず,M&A市場では,「適切な後継者がいない。」という話を頻繁に耳にすることがないのです。

この結果,M&A市場では,事業の譲受けを求める会社が多いにもかかわらず,事業を譲渡そうとする会社が非常に少ないという形で現れてくるのです。

中小企業を対象としたM&Aは,近年,増加の傾向にありますが,それでも全体的な数としては少ないと考えています。M&A成立件数が少ない理由は,M&A市場において譲受け側の会社が多いにもかかわらず,譲渡し側の企業が少ないところにあるのです。
そして,多くの中小企業が後継者問題で頭を悩ましているにもかかわらず,譲渡し側の企業がM&A市場にあがってこない理由は,経営者が後継者問題を率直に相談できる場所が少ないからであると考えています。

人生の大半を費やして事業を育て上げてきた経営者としては,自身の事業にひとかたならぬ思い入れがあります。
そのような事業を第三者に譲渡すわけですから,譲渡しにあたって様々な注文をつけたいところです。
また,仕事中心の人生を送ってきた経営者としては,事業を譲渡した後の自らの処遇について様々な心配事もあるでしょう。このような経営者の注文や心配事を理解し,それをM&Aの内容に反映させることができなればM&Aは成立しません。

M&Aを成功に導くための第一歩は,経営者の事業に対する思い入れやM&A後の心配事を理解し,それをM&Aの内容に反映させるために努力を惜しまないパートナーを選択するところにあると考えています。
代表取締役 冨 宅 恵

競争力強化のためのM&A

本稿では,新聞紙上を頻繁に賑わしているM&Aが,一体,どのような目的で行われているのかを説明したいと思います。

さて一口にM&Aが行われる目的と言いましても,そこには実に様々な目的が存在します。
そこでまずこれを大きく分けますと,大企業同士で行われるものと中小企業が対象となるものとの間では,その目的が自ずと異なることとが分かってきます。
大企業同士のM&Aの目的において,よく言われるのが,国際的な競争力をつけるための合従連衡というキーワードです。

近年,自動車業界や鉄鋼業界においては国際的な競争が激化しており,国際的な企業再編が進んでいます。
また銀行業界もかつて13行あった都市銀行はメガと呼ばれる4行に集約されておりますし,大手商社においても特定の事業部門を競業他社と統合するということが行われてきました。

新薬開発に莫大な費用が必要になる製薬会社においても国際競争力をつけるための合従連衡が行われています。

つい先日には,食品最大手のキリンホールディングスと2位のサントリーホールディングスが経営統合の交渉を進めていることが明らかになりました。
報道によれば,この統合が実現すれば,統合後企業グループは,ビールと清涼飲料で国内首位に浮上し,世界でも最大級の酒類・飲料メーカーとなるとのことです。

現在,両社は,持ち株会社を設立する方向で統合案を調整しているとのことですが,この統合により国内市場の収益基盤を強化し,成長が見込まれる海外市場を共同開拓することで世界的な勝ち残りを目指すと言われています。

このように国際的な競争力をつけるための合従連衡は,大企業同士のM&Aの目的として,最もよく言われるキーワードの一つですが,今後も,このような内需の有力企業同士が手を取り合い,グローバルな市場での成長を求める形での再編が多くなることが予想されています。
取締役 久 保 陽 一

競争力強化のM&A(2)

本稿では,前稿に引き続き,新聞紙上を頻繁に賑わしているM&Aが,一体,どのような目的で行われているのかを説明したいと思います。

一口にM&Aが行われる目的と言っても,実に様々な目的が存在しており,大企業同士で行われる場合と中小企業が対象となる場合においては,その目的についても自ずと異なることが多いと言えます。

大企業同士のM&Aの目的において,国際的な競争力をつけるための合従連衡と並んでよく用いられるのが,国内市場における競争力強化のための経営統合というキーワードです。

現実にも国内市場での生き残りをかけ,あらゆる業界で合併や持株会社方式を利用した業界内集約が進んでいます。
総合スーパーの業界や食品業界では事実上2社体制となり,百貨店業界においても4大グループに集約されました。また,ドラッグストアやホームセンター,電器小売業界においても集約が進んでいます。

近時では,新生銀行とあおぞら銀行が,来年10月に合併すると正式発表されました。
この合併については,新生銀が旧日本長期信用銀行,あおぞら銀行が旧日本債券信用銀行を前身とし,破綻した旧信用銀同士の合併であり,前回の破綻時にも巨額の公的資金が注入されたにもかかわらず,本合併後の経営安定化のため,公的資金の再投入を申請することも検討していると言われることから,別の意味でも注目されているところです。

この合併では,重複店舗の解消などの効率化を進める一方,海外投資に重点を置いた従来路線を転換し,国内事業を柱に再建を目指す方針と言われており,その意味では,国内市場における競争力強化を目的とするものとも言えるでしょう。

なお両行は従来,共同持ち株会社を設立する方針であったところ,統合効果を早期に出すといった狙いから直接合併に踏み切ったようです。

金融恐慌の影響により,多くの企業が痛手を負っている今,このように国内市場における競争力強化を目的とした大企業同士のM&Aも益々増えてくることが予想されます。
取締役 久 保 陽 一

競争力強化のM&A(3)

本稿では,前稿に引き続き,新聞紙上を頻繁に賑わしているM&Aが,一体,どのような目的で行われているのかを説明したいと思います。

これまで述べてきたとおり一口にM&Aが行われる目的と言いましても,そこには実に様々な目的が存在します。
大きく分けますと,大企業同士で行われるものと中小企業が対象となるものとの間では,その目的が自ずと異なることとなります。

今回は,大企業に限った話ではありませんが,ある企業の事業を取得した経緯として,民事再生手続がキーワードとなるケースが増えている点を取り上げたいと思います。

民事再生手続とは,平成12年より施行されている民事再生法に基づいて行われる再建型の倒産手続きであり,過大な債務を支払可能な金額まで減額し,これを最長10年間で分割して支払うという手続です。

民事再生手続では,このような債権カット並びに長期分割弁済と言った内容を定めた再生計画を債権者の多数決により決議し,これに基づき,再生会社を再生することになります。

一方,民事再生手続は,当該「企業」の再生ではなく「事業」の再生にもよく用いられるようになり,予め優良な事業部門についてスポンサーを選定し,民事再生手続において当該事業部門のみを譲渡して再生し,本体を清算するといったプレパッケージ型の手続や100%減資を行った上でスポンサー企業が資本投入を行う等の方法でM&Aが行わることも増えています。

近時も,三越伊勢丹ホールディングスが,その子会社と民事再生手続中の丸井今井との間で,札幌と函館の事業を譲り受ける旨の事業譲渡契約を締結したことが発表されました。

三越伊勢丹ホールディングスは,民事再生手続において,丸井今井からのスポンサーとなり,具体的な協議を進めてきたとのことですが,時間の経過による事業の毀損を最小限に抑えるため,早期に事業譲渡を実施することが必要であると判断して,早期の事業譲渡契約に至ったようです。

このように,近時,再び倒産事件が増加傾向にある中,民事再生手続中の会社の事業を再生するためにM&Aが活用される場面も増えてくるものと思われます。
取締役 久 保 陽 一

親族への事業承継

皆様の会社には、適任といえる後継者がいらっしゃいますでしょうか。 社長に寿命がありますが、事業に寿命はありません。 もし、一人の社長が会社を立派に育て上げたとき、その会社は、社会の公器として様々な役割を担っているはずです。

従業員の雇用確保とその家族の生活の維持、取引先への利益享受と相互繁栄、利益を生み出し納税することで全国民の利益に応える等、その社会的な意味は相当なものがあります。
これを社長の寿命とともに消滅させることは許されることではありません。

この点、適任といえる後継者がいらっしゃる会社については、その後継者の方に適切に事業を承継させればよいのですが、さて、本当に適任といえるでしょうか。

例えば、ご子息に事業を承継させるようと考えている社長にお聞きします。
「本当に貴社のご子息は社長を後を継げますか。」「社長にふさわしいですか。」「社長としての能力はありますか。」「従業員はついてきますか。」「取引先はついてきますか。」これらの質問に迷うことなくYESといえる会社につきましては、ご子息に事業を承継させればよいと思います。

ただ、その場合でも、その準備は万全にする必要があります。
ご子息に早い段階で事業に参加してもらい、その能力を見極め、適切かつ十分に教育をし、多方面に対する信頼を勝ち得ておく必要があります。
また、遺言書で、事業が承継されるよう、適切に財産分配を取り決めておく必要があります。
といっても、遺言書で事業用財産を事業承継者に相続させる旨の遺言をしたとしても、それだけでは不十分です。

民法上、遺留分という制度があり、遺言書をもってしても他の相続人に残さなければならない最低限の財産取り分というものがあります。
これを念頭において事業承継対策をする必要があります。

この点に関し、昨今、中小企業経営承継円滑化法が制定、施行されました。
同法では、事業承継に際しての相続の遺留分に関する規定の特例が設けられています。
具体的には、先代経営者から贈与などにより取得した自社株式や一定の財産について遺留分算定の基礎財産から除外することや、取得した株式の価格を合意時の評価額に固定することが可能となります。

その他、推定相続人が事業を承継するにあたり必要となる資金を支援する金融支援措置に関する規定も設けられています。

また、一定の中小企業については、株式や持分につき相続税の80%について納税の猶予を受けることができ、相続人が死亡するときまでその株式や持分を持ち続けた場合には猶予された税金の納付が免除されます。

これらの法整備をうまく利用し、ご子息(新族)に対する事業承継を予め計画をもって実行していかければなりません。
取締役 吉 村 洋 文

第三者への事業承継の必要性

前稿では、事業承継の必要性と、ご子息(ご新族)に事業承継させる場合の留意点についてご説明しました。 では、事業承継にあたり、適任となる親族の承継者がいない会社はどうすればよいのでしょうか。

一般的な中小企業には、設立当時から会社に尽くしてきた社長の右腕といえる役員や、従業員がいることは少なくなく、取引先や内部の従業員等との関係だけからみれば、事業承継をさせるに適任な役員や従業員がいることはよくあります。

しかし、事業承継では、社長の個人保証を解除しなければならないという要請と、株主(社長等)に会社の価値に見合った対価を支払わなければならないという問題があります。
一般の役員や従業員では、通常、十分な資力がありませんので、簡単にこの問題を解決することができません。

この点、金融機関や投資ファンドから資金を調達して事業承継を遂げる場合もあります。
ただ、金融機関や投資ファンドは、利回り、回収を目的としていますので、その返済や高利回りの約束に応えなければなりません。
場合によっては、資金を貸与した金融機関や投資ファンドが経営に意見を差挟んできたり,経営者の交代を求めてくることもあります。

また、事業を承継する役員や従業員は、会社の全債務に対して、個人保証をするだけでなく、自宅等の個人資産を全て担保に提供しなければならないのが通常です。

それまでは、このような責任を負うことがなかった役員や従業員にそのような覚悟と責任を負わせることは容易ではありません。
また、社長の中には、株を自分が持っておき、社長職を譲って会長職につくなどして引退すればよいと考えておられる方もいらっしゃいますが、その場合は、社長の個人保証は外れません。

自分が関与しない経営によって、会社が傾いた場合、社長の個人資産も一挙になくなり、場合によっては自己破産も余儀なくされる場合もあります。

事業承継は、実は、非常に難しい問題なのです。
「2006年版中小企業白書」によれば、後継者不在による企業の年間廃業数は約7万社、これにより失われる雇用は、約30万人と推計されています。
中小企業庁は、これを受け、事業承継問題に着目し、「中小企業事業承継ハンドブック」等の分かりやすいパンフレットを発行するなどして事業承継問題について啓蒙していますし、各商工会議所等においても、事業承継のセミナー等が行なわれています。

私自身も、大阪商工会議所と大阪弁護士会が共催した経営指導員向けセミナーで、事業承継と会社法について、講師として参加したことがあります。
適任となる後継者がいない場合の事業承継として、M&Aが最近では多く利用される傾向にあります。

次稿では、事業承継とM&Aについてご説明致します。
取締役 吉 村 洋 文

M&Aの利点

前稿では、事業承継の難しさと、第三の方法としてM&Aについて簡単に触れました。 中小企業の事業承継の場面において、適任となる後継者がいない場合、会社としては、上場という特異な場合を除き、?会社を清算して株主分配するか、?第三者にM&Aで会社を売却するしかありません。 そこで、会社を清算する場合と第三者にM&Aで売却する場合、どちらが社長(株主)にとって有利か比較検討してみます。

例えば、非常に簡略化してご説明するために、簿価として、現預金1億円、棚卸資産1億円、機械設備1億円、建物1億円、土地1億円、上場投資有価証券1億円、合計6億円の資産、買掛1億円、借入3億円、合計4億円の負債がある会社があるとします。

この会社を清算して全ての資産を早期処分して現金化するとした場合、通常、棚卸資産は半額程度になる場合が多く、機械設備は今後使用しないため無価値(逆にスクラップ費用が発生する場合有り)、建物も工場等であれば利用価値がなく大半は解体して無価値(逆に解体費用が発生する場合有り)、土地は立地等にもよりますが工場等であれば売却価格は半額程度になることが多いですし、土壌汚染有無についてのコストが発生する場合もあります。
負債では、買掛、借入は簿価をそのまま支払わなければなりません。なお、会社を清算する以上、会社都合として、従業員等への退職金等も上乗せして支払わなければならないことが多くあります。
従いまして、上記の例でいえば、清算した場合、現預金1億円、棚卸資産0,5億円、機械設備0円、建物0億円、土地0,5億円、上場投資有価証券1億円、合計3億円の資産、買掛1億円、借入3億円、合計4億円の負債となり、債務超過となります。
この場合、特別清算をするか、破産等の手続きをとらざるを得ず、当然、社長(株主)に分配はありません。

これに対し、M&Aで第三者に売却する場合はどうでしょうか。
M&Aにおいても、時価評価はされるのですが、その時点で売却するのではなく、事業を継続させることが前提ですので、清算を前提とした評価はされません。
従いまして、例えば、上記の例でいえば、現預金1億円、棚卸資産0,8億円、機械設備1億円、建物1億円、土地1億円、上場投資有価証券1億円、合計5,8億円の資産、買掛1億円、借入3億円、合計4億円の負債となり、1,8億円の資産超となります。
しかも、M&Aでは、資産の価値だけでなく、企業が将来生み出す利益についても、評価に加算されます。
すなわち、当該会社が多くの利益を生み出している場合、その売却価格は、1,8億円ではなく、2億円にも3億円にもなる可能性があります。

これだけ見ても、清算よりも、M&Aの方が有利であることがよく分かります。
しかも、清算の場合は、従業員の雇用を奪うことになり、従業員やその家族に多大な迷惑がかかりますが、M&Aでは、雇用が維持されることが条件となります(譲受会社としては、事業を買うのですから、基本的にその内容となっている従業員は会社にいてもらいたいのが通常です)。

後継者が不在の会社におかれましては、M&Aによる事業承継を真剣に検討されてみてはいかがでしょうか。